自己破産で「管財事件」になるのはどんな場合か(名古屋地裁の基準)

解説債務整理

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自己破産を考えている方からよく受ける質問の一つが、「自分の場合、費用はいくらかかるのか」というものです。その答えを大きく左右するのが、手続が「同時廃止事件」になるか、「管財事件」になるかです。

この記事では、名古屋地方裁判所(本庁と、一宮・岡崎・豊橋の各支部)が定めている基準をもとに、どのような場合に管財事件になるのかを説明します。この基準は2018年1月から運用されているものです。裁判所の運用は見直されることがあり、ほかの裁判所では基準が異なる場合があります。

同時廃止事件と管財事件の違い

自己破産の手続では、裁判所が、破産者の財産を調べてお金に換え、債権者に分配する人(破産管財人)を選ぶかどうかを決めます。

同時廃止事件 管財事件
破産管財人 選ばれない 弁護士が選ばれる
裁判所に納める費用 少額 破産管財人の報酬などにあてる予納金が必要(個人で、弁護士が代理人として申し立てた場合、20万円程度から)
期間の目安 比較的短い 半年から1年程度かかることが多い
破産者の負担 比較的少ない 破産管財人との面談、債権者集会への出席がある。破産者あての郵便物は、破産管財人に転送される

同時廃止事件は、分配するほどの財産がないことが明らかなときに、破産手続の開始と同時に手続を終わらせる(廃止する)ものです。管財事件では、破産管財人が財産を調べ、お金に換えて債権者に分配します。

どちらになるかは、申し立てる側が選ぶのではなく、裁判所が決めます。

原則:財産が基準額に届くかどうか

名古屋地裁では、次の2つの条件をどちらも満たす場合に、原則として同時廃止事件とされます。

  1. 現金と普通預金(普通貯金)の合計が50万円未満であること
  2. それ以外の財産は、項目ごとの合計がそれぞれ20万円未満であること

どちらか一方でも満たさない場合は、原則として管財事件になります。ただし、20万円以上の財産が生活に欠かせないものであったり、お金に換えるのが難しいものであったりする場合は、事情によって同時廃止事件とされることもあります。

「項目ごと」に合計するという点に注意

2つ目の条件は、財産を種類(項目)ごとに分け、それぞれの項目の合計額で判断します。主な項目は次のとおりです。

項目 例
普通預金以外の預貯金 定期預金、定額貯金
保険の解約返戻金 生命保険、学資保険、個人年金保険、共済
積立金 社内預金、財形貯蓄、互助会の積立金
自動車 自動車、オートバイ
退職金 勤務先の退職金
不動産 土地、建物
高価な動産 貴金属、時計、美術品、生活に必須とは言えない物
有価証券 株式、国債、ゴルフ会員権
貸付金・過払金 人に貸したお金、払い過ぎた利息の返還請求権

たとえば、解約返戻金が10万円ずつある保険に3つ入っている場合、一つひとつは20万円未満でも、「保険の解約返戻金」という項目の合計は30万円になるため、原則として管財事件になります。

現金と普通預金の「50万円」

現金は、99万円まで、破産した後も手元に残せる財産です(後述)。それでも、普通預金と合わせて50万円以上あると、ほかにも財産があるのではないかと考えられ、それを調べるために管財事件とされます。

現金と普通預金は合わせて数えます。申立ての直前に年金や給料が振り込まれて、たまたま合計が50万円以上になった場合も、原則として管財事件とされます。申し立てる時期によって結論が変わることがあるため、申立ての準備の段階で、残高の動きにも注意が必要です。

財産の評価のしかた

財産の価値は、購入したときの値段ではなく、いまお金に換えたらいくらになるかで評価します。名古屋地裁では、主に次のような扱いがされています。

  • 自動車:メーカーが発表した新車の本体価格が300万円以下の国産車(軽自動車を含みます)で、初めて登録されてから7年以上たったものは、原則として価値がないものとみなされます。ローン会社に所有権がある(所有権留保)場合は、ローン会社が車を引き揚げるか、引き揚げないことを確認できれば、価値がないものと評価されます。なお、申立て前にローン会社が車を引き揚げた場合は、その引揚げが取り消しの対象にならないかを調べるため、管財事件になることがあります。
  • 退職金:まだ退職していない場合、見込額の8分の1で評価します。近いうちに退職する予定がある場合などは、4分の1で評価されることがあります。
  • 保険:解約返戻金で評価します。ただし、現に給付を受けている、または近く給付を受ける見込みが高い医療保険や、高齢や病気のために新たに加入できない生命保険などは、財産として評価しない扱いがされることがあります。
  • 住宅ローンの残る自宅:住宅ローンなどの残高が、不動産の評価額の一定の倍率以上ある場合(たとえば、固定資産税評価額の、建物は1.5倍以上、宅地は2倍以上)は、原則として価値がないものとみなされます。価値がないとみなされるのは、手続の振分けを判断するためです。住宅ローンが残る自宅は、破産すると通常は手放すことになります。
  • 賃貸住宅の敷金:原則として0円と評価されます。

財産が基準額に届かなくても管財事件になる場合

財産が上の基準に届かない場合でも、次のような事情があると、原則として管財事件になります。

1. 財産の状況がはっきりしない場合

破産管財人に財産を調べてもらう必要があると判断される場合です。たとえば、次のような場合があります。

  • 貯蓄や投資の性質が強く、生活に欠かせないとは言えない財産(骨董品、貴金属、株式、貸したお金など)を、20万円を少し下回る額で、いくつも持っている
  • 財産を手に入れた時期や経緯、そのお金の出どころがはっきりしない
  • 管財事件になるのを避けるために、申立ての直前に財産を現金に換えたり、処分したりした
  • 弁護士に依頼してから申し立てるまでに長い時間がたち、その間のお金の流れがはっきりしない

2. 取り戻すべき財産の移動がある場合

申立ての前に、特定の債権者(たとえば親族や知人)にだけ返済した、財産を不当に安く手放した、といった行為があり、それを取り消して取り戻せば、合計20万円以上が戻ってくる見込みがある場合です。

3. 免責について調べる必要がある場合

自己破産で借金の支払いを免れること(免責)が認められない事情(免責不許可事由)がある場合です。たとえば、浪費やギャンブルで借金が増えた場合などがあたります。この場合、破産管財人が事情を調べ、手続の間の生活の様子も見たうえで、免責を認めてよいかについて意見を述べます。

免責不許可事由があっても、それだけで免責が認められないとは限りません。事情によっては、裁判所の判断で免責が認められることがあります(裁量免責)。免責不許可事由の中身と裁量免責については、「自己破産で借金の支払いを免れないのはどんな場合か。免責不許可事由と裁量免責」をご覧ください。

個人事業主・会社の代表者の場合

個人で事業をしている方(申立て前5年以内に事業をやめた方を含みます)と、会社の代表者(申立て前5年以内に代表者を退いた方を含みます)は、原則として管財事件になります。事業の財産と個人の財産の区別や、取引の状況を調べる必要があるためです。

ただし、個人事業主の方で、財産が基準額に届かず、申立ての後に仕入れの代金など事業による新しい支払いの義務が生じないこと、事業をやめる前の2年分の確定申告書と帳簿が残っていることなどの条件を満たす場合は、同時廃止事件になることもあります。会社の代表者の場合も、十分な資料がそろっていれば、同時廃止事件とされることがあります。

申立ての前にしてはいけないこと

管財事件になるのを避けようとして、次のようなことをすると、かえって管財事件になったり、免責が認められなくなったりするおそれがあります。

  • 財産を急いで現金に換えたり、家族の名義に移したりする
  • 一部の債権者にだけ返済する
  • 同時廃止事件にしてもらうために、手持ちのお金を債権者に分けて返す(名古屋地裁では、このような返済は認めないとされています)

財産の扱いに迷うことがあれば、自分で動く前に、弁護士に相談してください。

管財事件になっても、すべての財産を失うわけではない

管財事件になっても、生活に必要な財産まで取り上げられるわけではありません。破産した後も手元に残せる財産を「自由財産」といいます。

法律上、当然に自由財産となるのは、99万円までの現金や、差押えが禁止されている財産(生活に欠かせない家具や衣類など)です。

それ以外の財産も、裁判所に申し立てて認められれば、自由財産として手元に残すことができます(自由財産の拡張)。

名古屋地裁での拡張の目安

名古屋地裁では、おおむね次のように扱われています。

  • 対象は、生活の基盤となる財産:自動車、退職金請求権、生命保険の解約返戻金などです。これらは、項目ごとの合計が20万円以下であれば、原則として拡張が認められます。
  • 上限は、現金と合わせて99万円:手元の現金を含めて、残す財産の評価額の合計が、原則として99万円以下であることが必要です。この枠に収まっていれば、自動車や退職金の評価額が20万円を超えていても、通常は拡張が認められます。

具体的には、次のようになります。

例 扱い
現金30万円、自動車(評価額30万円) 合計60万円で、99万円の枠に収まるため、自動車も通常はそのまま残せます
現金50万円、退職金(評価額60万円) 合計110万円で、枠を11万円超えます。超えた11万円を破産管財人に納めることで、残りを手元に残せる場合があります
現金50万円、宝石(評価額60万円) 宝石は生活の基盤となる財産とは言えないため、拡張は認められにくく、上のような扱いもされません

拡張を求める財産がある場合は、申立ての段階から、生活に必要であることを説明できるようにしておくことが大切です。

ご相談にあたって

同時廃止事件になるか管財事件になるかは、財産の中身や、借金が増えた経緯、申立てまでのお金の動きによって決まります。当事務所では、お持ちの財産を一覧にして、どちらの手続になりそうか、費用がどのくらいかかるかの見通しをお伝えしています。

自己破産のほかに、任意整理や個人再生が使える場合もあります。破産・個人再生・任意整理のご相談は無料でお受けしていますので、お気軽にご相談ください。

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