取引先の信用と自社の状況をつかむ、計算書類(決算書)の読み方

解説企業法務

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新しい取引先と大きな取引を始めるとき。売掛金の支払いが遅れ始めたとき。自社の資金繰りが苦しくなってきたとき。こうした場面で判断の材料になるのが、会社の「計算書類」、いわゆる決算書です。

計算書類は、会計の担当者だけが読むものではありません。契約の条件を決めたり、代金の回収方法を考えたりするときにも、計算書類から分かることは少なくありません。この記事では、法律問題とのかかわりを意識しながら、計算書類のどこを見ればよいかを説明します。

計算書類とは

株式会社は、事業年度ごとに計算書類を作らなければなりません(会社法435条2項)。合同会社も同様に作成します。株式会社の計算書類は、次の4つです。

書類 分かること
貸借対照表 決算日の時点で、会社がどのような財産を持ち、どのような負債(借入金や買掛金など、支払うべきもの)を負っているか
損益計算書 1年間で、どれだけ売り上げ、どれだけ利益(または損失)が出たか
株主資本等変動計算書 純資産(資本金や、これまでの利益の積み上げなど)が、配当などによって1年間でどう変わったか
個別注記表 ほかの3つの書類を読むうえで必要な補足(会計の方針、担保に入っている財産など)

このほかに、事業の状況をまとめた「事業報告」と、計算書類の内訳を示す「附属明細書」も作らなければなりません。

貸借対照表の読み方

貸借対照表は、「資産」と、「負債」「純資産」を左右(または上下)に並べた表です。両方の合計は一致し、「資産 = 負債 + 純資産」の関係になります。

まず見ていただきたいのは、次の3点です。

見るところ 考え方
純資産がプラスか、マイナスか 純資産がマイナスの状態を「債務超過」といいます。帳簿の上では、財産をすべて処分しても負債を払いきれない状態です
流動資産と流動負債のバランス 1年以内に支払う負債(流動負債)を、1年以内に現金にできる資産(流動資産)でまかなえるかを見ます。流動資産を流動負債で割った割合を「流動比率」といいます。100%を下回っていると、短期の支払いに余裕がない可能性があります
借入金の額と、その増え方 売上に比べて借入金が多すぎないか、前の年より急に増えていないかを見ます

数字をそのまま信じないほうがよい項目

中小企業の貸借対照表では、帳簿上の金額と実際の価値が大きく違うことがあります。たとえば、次のような項目です。

  • 売掛金:回収の見込みがない取引先への売掛金が、そのまま残っていることがあります。
  • 在庫(棚卸資産):売れ残って価値の下がった商品が、仕入れたときの値段のまま計上されていることがあります。
  • 土地・建物:土地は買ったときの値段のまま、建物は買ったときの値段から毎年少しずつ差し引いた額で計上されるため、いまの価値(時価)とは大きく違うことがあります。
  • 代表者への貸付金:会社が代表者にお金を貸している形になっているものです。実際には返ってくる見込みが低いこともあります。

反対に、代表者が会社に貸しているお金(代表者からの借入金)は、帳簿上は負債ですが、代表者が返済を急がないことも多く、実質的には会社の自己資金に近いと見られる場合があります。ただし、その会社が倒産した場合には、代表者の貸付金も、ほかの債権者と同じように配当を受けるのが原則です。取引先として見るときは、この点に注意が必要です。

損益計算書の読み方

損益計算書では、売上から順に費用を差し引いて、いくつかの段階の「利益」を示します。

利益 意味
売上総利益(粗利) 売上から、商品の仕入れや製造にかかった費用(売上原価)を引いたもの
営業利益 売上総利益から、人件費や家賃などの経費を引いたもの。本業でのもうけを表します
経常利益 営業利益に、利息の支払いや受取りなど、本業以外のふだんの収支を加え、または差し引いたもの
税引前当期純利益 経常利益に、土地の売却益や災害による損失など、その年だけの特別な損益を加え、または差し引いたもの
当期純利益 税引前当期純利益から、法人税などを差し引いた、最終的なもうけ

最終的な当期純利益が黒字でも、営業利益が赤字であれば、本業ではもうかっていないことになります。たとえば、土地を売ったことによる一時的な利益で黒字になっている場合があります。どの段階の利益で黒字なのかを確かめることが大切です。

1年分だけでなく、何年か並べて比べる

計算書類は、1年分だけを見ても分からないことが多くあります。3年分ほどを並べて、次のような変化がないかを確かめます。

  • 売上や営業利益が、年々下がっていないか
  • 借入金が、年々増えていないか
  • 売上はあまり変わらないのに、売掛金や在庫だけが急に増えていないか

最後の点は、代金を回収できていない取引が増えていたり、帳簿の数字が実態と合っていなかったりすることの手がかりになることがあります。

計算書類だけでは分からないこと

計算書類を読むときは、次の限界も知っておく必要があります。

  • 利益が出ていても、お金が足りなくなることがある:売上を計上しても、代金を受け取るのは何か月も先ということがあります。利益は出ているのに支払いのお金が足りず、倒産してしまうこともあります(いわゆる黒字倒産)。お金の出入りを示す「キャッシュ・フロー計算書」は、上場会社などを除き作成の義務がなく、中小企業では作られていないことが多い書類です。
  • 外部の監査を受けていないことが多い:資本金5億円以上などの大会社を除き、計算書類は、外部の会計監査を受けていないのが通常です。数字が正しいかどうかは、ほかの資料とも照らし合わせて確かめる必要があります。
  • 注記が省かれていることがある:会社の規模などによっては、個別注記表の一部の記載を省くことが認められています。担保に入っている財産や、ほかの会社の借金の保証をしているかどうかが、計算書類から分からないこともあります。

取引先の計算書類を手に入れるには

自社の計算書類は手元にありますが、取引先の計算書類は、次のような方法で入手することになります。

  • 取引を始めるときに、提出をお願いする:継続的な取引や、大きな金額の取引では、契約の前に直近の計算書類の提出を求めることがあります。さらに、取引の基本契約で、決算のたびに計算書類を提出してもらう取り決めをしておけば、取引を続ける中で相手の状況の変化に気づくことができます。
  • 決算公告を見る:株式会社には、定時株主総会の後に貸借対照表(大会社は損益計算書も)を公告する義務があります(会社法440条)。ただし、官報での公告は要旨だけでよいため、分かることは限られます。また、実際には公告していない会社も少なくありません。
  • 信用調査会社の報告書を利用する:費用はかかりますが、決算の数字のほか、取引の状況や評判なども確かめられます。

また、会社の株主と債権者は、その会社に対して、計算書類の閲覧や写しの交付を求めることができます(会社法442条3項)。写しの交付には、会社が定めた費用がかかります。取引先に支払ってもらっていない売掛金があれば、自社はその取引先の「債権者」にあたります。

法律問題の場面での使い方

計算書類は、次のような場面で、判断の材料になります。

場面 計算書類から考えること 打てる手の例
取引を始める 代金の支払いを待つ期間(支払いサイト)や取引の上限額をどうするか。前払いや担保、保証を求めるべきか 基本契約に、決算書の定期的な提出、支払いが遅れたときに残りの代金をまとめて請求できる条項(期限の利益の喪失)、代金を払い終えるまで商品の所有権をこちらに残す条項(所有権留保)などを入れる。代表者の連帯保証を求めることも検討する
代金の支払いが遅れ始めた 回収を急ぐべきか。相手にどのような財産があり、どこから回収できそうか 相手に支払うべきお金があれば差し引く(相殺)。担保があれば実行する。財産が処分されるおそれがあれば、裁判所に申し立てて財産を仮に押さえる(仮差押え)
株式を譲り渡す・相続する 株式の価値をどう考えるか 計算書類をもとに、株式の価値の考え方を整理する(相続のときの税務上の評価は、税理士にご相談ください)
自社の資金繰りが苦しい 再建を目指せるか、事業をたたむことも考えるべきか 資金繰りの見通しを立て、再建の方法や、事業をたたむ場合の手続を検討する(債務整理のページもご覧ください)

なお、税務申告書や勘定科目の内訳書も、計算書類を読むときの参考になります。税務についての判断は、税理士にご相談ください。ご希望があれば、当事務所から税理士をご紹介します。

ご相談にあたって

契約の条件や、代金の回収方針を決めるときは、相手の計算書類から分かることを踏まえて検討することが大切です。当事務所では、事業会社の経理の仕事に携わった経験のある弁護士が、計算書類を読み取ったうえで、取引の条件や回収の方法を一緒に考えます。契約書の作成や見直しもお引き受けしています。

取引先の信用に不安があるときや、自社の先行きについて相談したいときは、直近3年分ほどの決算書をお持ちのうえ、お気軽にご相談ください。会社の法務全般については、企業法務のページをご覧ください。

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