自宅を残して借金を減らす個人再生。住宅ローン特則の条件と、小規模個人再生を選ぶ理由
解説債務整理個人再生
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住宅ローンのほかに、カードローンやクレジットの返済が重なり、毎月の支払いが苦しくなっている。それでも、家族と暮らす自宅は手放したくない。
自己破産をすると、住宅ローンの返済が止まり、自宅は原則として手放すことになります。借入先と話し合う任意整理では、借金の元金を大きく減らすことは難しいため、収入によっては返しきれないこともあります。
こうした場合に検討するのが、個人再生です。住宅ローンは今までどおり払い続けて自宅を残し、それ以外の借金を大きく減らせる場合があります。
この記事では、自宅を残す個人再生の仕組みと条件、返済額の決まり方、そして当事務所が住宅ローン特則を使える場合に小規模個人再生をおすすめしている理由を説明します。なお、この記事で紹介する名古屋地方裁判所の扱いは、2023年時点のものです。
個人再生とは
個人再生は、裁判所に再生計画を認めてもらい、借金を減らしたうえで、残りを原則3年(特別の事情がある場合は5年以内)で分割して返していく手続です(民事再生法229条2項)。
利用できるのは、次の条件を満たす方です(同法221条1項)。
- 将来にわたって、継続して、または繰り返し収入を得る見込みがあること
- 住宅ローンなどを除いた借金の総額が5000万円以下であること
自己破産と比べると、次のような違いがあります。
- 財産を手放すことが前提ではありません。その代わり、持っている財産の額に応じて、返す額が増えることがあります(後で説明します)
- 自己破産の免責不許可事由(ギャンブルや浪費など)の定めがありません。詳しくは「自己破産の免責不許可事由」をご覧ください
- 自己破産の手続中に制限される一部の資格や仕事にも、個人再生では制限がありません
一方で、税金や社会保険料は減りません。養育費などの家族に対する支払いや、相手を害するつもりで加えた損害の賠償、故意または重い過失で人の命や体を傷つけた場合の賠償なども、原則として減らすことができません(同法229条3項)。
住宅ローン特則(住宅資金特別条項)
自宅を残せる仕組み
個人再生では、借金は原則としてすべて同じ割合で減らされます。ところが、住宅ローンには自宅に抵当権が付いているため、何もしなければ、銀行は個人再生の手続とは別に抵当権を実行でき(同法53条2項)、結局は自宅を失ってしまいます。
そこで、再生計画に「住宅資金特別条項」(住宅ローン特則)を定めると、住宅ローンだけは減らさずに、約束どおり払い続けることができます。ほかの借金だけを減らし、自宅を残すための仕組みです。
住宅ローンの支払いが遅れている場合でも、遅れている分を、ほかの借金の返済期間内に支払う形で使えることがあります(同法199条1項)。それが難しい場合には、条件を満たせば、返済の期間を延ばすことも認められています(同条2項。延長は10年以内で、最後の返済のときに70歳を超えないこと)。
使える条件
住宅ローン特則を使えるのは、主に次の条件を満たす場合です(同法196条、198条)。
- 自分が所有し、自分で住んでいる建物であること:床面積の2分の1以上を、自分が住むために使っている必要があります。店舗や賃貸部分が半分を超える建物は対象になりません
- 住宅を買う・建てる・改良するための分割払いの借入れであること:その借入れ(または保証会社の求償権)のための抵当権が、自宅に設定されていることが必要です
- 自宅にほかの担保が付いていないこと:たとえば、カードローンや事業資金のための抵当権が自宅に付いている場合は使えません
- 保証会社が代わりに返済した後なら、6か月以内に申し立てること:返済の遅れが続くと、保証会社が銀行に一括で返済します。その日から6か月を過ぎると、住宅ローン特則は使えなくなります
4つ目は特に注意が必要です。住宅ローンの返済が遅れ始めたら、早めにご相談ください。保証会社が代わりに返済した後でも、6か月以内に申し立てて、再生計画の認可が確定すれば、保証会社が代わりに返済する前の状態に戻り、住宅ローン特則で返していくことができます(同法204条1項)。すでに自宅の競売が始まっている場合も、競売の手続を止めるよう、裁判所に申し立てることができます(同法197条1項)。
夫婦がそれぞれ住宅ローンを借り、自宅全体にそれぞれの抵当権を設定している場合(ペアローン)は、通常、夫婦2人とも個人再生を申し立てる必要があります。名古屋地方裁判所では、ペアローンの事案では個人再生委員(後で説明します)が選ばれています。このほか、親子で住宅ローンを組んでいる場合や、自宅が共有になっている場合なども、個別の検討が必要です。
住宅ローンの借入先との話し合いと、手続中の支払い
住宅ローン特則を使うときは、前もって住宅ローンの借入先と話し合うことになっています(民事再生規則101条1項)。実務では、申立ての前から話し合いを始めます。ご依頼を受けたら、弁護士から借入先に住宅ローン特則を使う予定であることを伝え、返済を続けられることを示す資料を出しながら進めます。
手続が始まると、借金の返済は原則として禁止されます。そのままでは住宅ローンも払えず、一括での返済を求められてしまうため、申立てと同時に裁判所に許可を求め、許可を得て、住宅ローンの支払いを続けます(民事再生法197条3項)。住宅ローンの引落し口座から、ほかの借金も引き落とされている場合は、住宅ローン用の口座を別に作るなど、支払いの方法を前もって借入先と相談します。
返す額の決まり方
個人再生で返す額は、次の基準で計算した額のうち、最も大きい額以上でなければなりません。
- 借金の額による最低額(同法231条2項3号・4号)
- 清算価値:仮に自己破産した場合に、借入先に配当される財産の額(同法174条2項4号)
- 可処分所得の2年分:給与所得者等再生の場合だけ(同法241条2項7号)。後の「小規模個人再生と給与所得者等再生」で説明します
1. 借金の額による最低額
住宅ローンなどを除いた借金の総額に応じて、次のように決まっています。
| 借金の総額 | 最低限返す額 |
|---|---|
| 100万円未満 | 全額 |
| 100万円以上500万円以下 | 100万円 |
| 500万円を超え1500万円以下 | 5分の1 |
| 1500万円を超え3000万円以下 | 300万円 |
| 3000万円を超え5000万円以下 | 10分の1 |
2. 清算価値
個人再生でも、持っている財産の額は返す額に影響します。破産した場合よりも借入先に不利な計画は認められないためです。預貯金、保険の解約返戻金、車、退職金の見込額などを合計します。
名古屋地方裁判所では、たとえば次のような扱いがされています。
- 現金は99万円まで、清算価値に含めない
- 退職金は、退職までの期間が3年を超える場合は見込額の8分の1、3年以内の場合は4分の1を計上する
- 確定給付企業年金、企業型の確定拠出年金、iDeCo は、清算価値に含めない
自宅の評価
自宅も、その時価から住宅ローンの残りを差し引いてプラスになる場合は、その差額が清算価値に含まれます。
名古屋地方裁判所では、自宅の時価を、原則として固定資産税評価額を基に計算します。土地は固定資産税評価額の2倍、建物は1.5倍です。マンションも、土地の持分と建物に分けて、同じように計算します。
たとえば、土地の固定資産税評価額が800万円、建物が400万円なら、時価は2200万円(800万円×2+400万円×1.5)です。住宅ローンの残りが2000万円なら、差額の200万円が清算価値に含まれます。
この計算で出た額より実際の価値が低い場合は、不動産会社2社の査定額の平均、または不動産鑑定士の鑑定額を時価として示すことができます。反対に、住宅ローンの残りがこの計算で出た額を超えている場合は、自宅は清算価値に影響しないため、固定資産評価証明書を出せば足ります。
固定資産税評価額などの価格の種類については、「不動産の評価はどう決まるか」をご覧ください。
計算の例
住宅ローンのほかに、カードローンなどの借金が600万円、清算価値が50万円の場合、借金の額による最低額は120万円(600万円の5分の1)です。清算価値よりも大きいため、返す額は120万円以上となり、3年(36回)で返すなら、毎月およそ3万3000円です。住宅ローンは、これとは別に今までどおり支払います。
小規模個人再生と給与所得者等再生
個人再生には、2つの種類があります。
| 小規模個人再生 | 給与所得者等再生 | |
|---|---|---|
| 使える方 | 継続して、または繰り返し収入を得る見込みのある方 | 給与など、変動の小さい定期的な収入がある方 |
| 借入先の同意 | 反対が一定数に達しないことが必要 | 不要 |
| 返す額の基準 | 1と2のうち大きい額 | 1と2と3のうち最も大きい額 |
| 前回の手続からの期間の制限 | なし | 自己破産の免責などから7年以内は使えない |
給与所得者等再生は借入先の同意が要らない代わりに、「可処分所得の2年分」以上を返す必要があります。
住宅ローン特則を使えるときに、小規模個人再生をおすすめする理由
当事務所では、住宅ローン特則を使える場合には、原則として小規模個人再生をおすすめしています。理由は次のとおりです。
給与所得者等再生では、返す額が大きくなりやすい
可処分所得は、手取りの収入から、政令で定められた最低限の生活費を差し引いて計算します。このうち住居費は、地域と世帯の人数ごとに決められた額で、実際の住宅ローンの返済額がそれより多くても、決められた額しか差し引かれません(民事再生法第241条第3項の額を定める政令5条1項)。そのため、住宅ローンを払いながら生活している方ほど、計算上の可処分所得が実際より大きくなり、返す額が増えてしまいがちです。
小規模個人再生の同意は、「反対が少なければよい」
小規模個人再生では、借入先に再生計画案への賛否を聞きます。ただし、積極的な賛成は要りません。反対した借入先が、数で半数に満たず、かつ、金額で、議決権の総額(住宅ローンを除いた借金の合計)の2分の1を超えなければ、可決されたものとみなされます(同法230条6項)。返事をしなかった借入先は、反対に数えられません。
住宅ローンの借入先は、賛否を聞く対象から外れる
住宅ローン特則を定めた再生計画案では、住宅ローンの借入先と保証会社は、住宅ローンについて議決権を持ちません(同法201条1項)。ただし、同じ銀行からカードローンなども借りている場合、その分には議決権があります。最も金額の大きい住宅ローンの借入先が反対に回ることはなく、賛否はカードローンなどの借入先の間で決まります。
実務でも、再生計画案に反対の回答をする借入先は多くありません。ただし、近年は、一部の金融機関が反対の回答をする例が増えているとされています。借入先の数が少ない場合や、借金の多くを1社が占めている場合は、1社の反対で否決されることもあります。そのため、申立ての前に借入先の意向を確かめたうえで、どちらの手続にするかをご提案します。
申立ての前に注意すること
- 借金は漏れなく申告する:家族・知人・勤務先からの借金、保証人になっている債務、携帯電話の未払いなども含めます。一部の借入先だけを手続から外すことはできません
- 特定の借入先にだけ返済しない:家族や知人、特定のカード会社にだけ返すと、その額が清算価値に上乗せされ、返す額が増えることがあります(住宅ローンは、今までどおり支払います)
- 財産を隠さない、見落とさない:保険、互助会の積立金、信用金庫などの出資金、退職金など、気づきにくい財産もあります。後から見つかると、返す額を計算し直すことになり、隠していた場合は、手続が認められないこともあります
- 税金や社会保険料の滞納:税金や社会保険料は、個人再生でも減りません。滞納がある場合は、申立ての前に、役所と支払方法を相談しておく必要があります
- 借入先の銀行にある口座:借金のある銀行に、給与の振込口座や公共料金の引落し口座がある場合、弁護士からの通知や裁判所からの通知が届くと、口座が止められ、預金と借金が相殺されることがあります。通知を送る前に、振込先や引落し口座を変えておく必要があります
- 車のローンが残っている場合:ローン会社が車の所有権を持っている場合、車を引き揚げられることがあります
- 保証人がいる借金:借金が減っても、保証人への請求は減りません。保証人に請求が向かうことになります
また、手続を始めると、官報に掲載され、信用情報にも登録されるため、一定期間は新しい借入れやクレジットカードの利用が難しくなります。
名古屋地裁での準備と手続の期間
名古屋地方裁判所では、再生計画どおりに返していけるか(履行可能性)を、家計の実績から確認します。そのため、申立ての前から再生計画案を出すまで、毎月の家計の状況を記録していただきます。
また、再生計画で予定している毎月の返済額を、申立て前から、再生計画の認可が確定するまで積み立てていただきます。積立てができていれば、計画どおりに返していけることを示す資料になります。積立金は、ほかの預金と分けて管理すれば、現金と合わせて99万円の範囲で、清算価値に含めない扱いです。ただし、この99万円は認可の時点の現金と積立金の合計で判断されるため、99万円を超えると、超えた分は清算価値に加わります。
財産や収入の状況を詳しく調べる必要がある場合や、再生計画案の作成に助言が必要な場合(ペアローンの事案や、保証会社が代わりに返済した後で、借入先や保証会社との話し合いが済んでいない事案など)には、裁判所が個人再生委員(通常は弁護士)を選びます。その場合は、個人再生委員の報酬として、15万円以上の予納金を裁判所に納める必要があります。
手続の期間は、名古屋地方裁判所の標準的なスケジュールでは、申立てから再生計画の認可が確定するまで、4か月から5か月ほどです。
再生計画どおりの返済が苦しくなったとき
再生計画が認められた後に、病気や収入の減少など、やむを得ない事情で返済が著しく難しくなった場合は、返済の期間を最長2年延ばすよう、裁判所に申し立てることができます(同法234条1項)。
さらに、本人の責任ではない事情で返済が極めて困難になり、すでに4分の3以上を返し終えているなどの条件を満たす場合は、残りの支払いを免除してもらえることもあります(同法235条)。ただし、この免除を受けても、住宅ローンの抵当権はなくならないため(同条7項)、自宅を残すには住宅ローンの支払いを続ける必要があります。
ご相談にあたって
個人再生が使えるか、どちらの種類を選ぶか、返す額がいくらになるかは、借金の内容、自宅の価値、家計の状況によって変わります。
当事務所では、住宅ローンの返済を続けながら個人再生で返していけるかを表計算で試算し、任意整理や自己破産を選んだ場合と比べながら、方針を決めていただけるようにしています。
ご相談の際は、住宅ローンの返済予定表、自宅の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書(または固定資産評価証明書)、給与明細、借入先の一覧(分かる範囲で)、預金通帳などをお持ちいただくと、具体的な見通しをお伝えしやすくなります。
当事務所では、事業を営んでいない方の個人再生をお受けしています。借金に関するご相談は無料です。収入と資産が一定の基準を満たせば、法テラス(民事法律扶助)もご利用いただけます(法テラスの審査があります)。対応できる内容は債務整理のページを、費用は費用のご案内をご覧ください。
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